アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み

アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み

アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み

「過払い金の返還。あなたも対象かもしれません。着手金無料!  成功報酬制!  お電話ください」

 

 テレビをよく見る人なら、1度はこんなCMを見掛けたことがあるでしょう。法律事務所としては珍しく、大々的にテレビCMを仕掛けて一躍有名になったのが弁護士法人「アディーレ法律事務所」です。

 

■「今だけ無料」は景品表示法に違反と議決

 

 そのアディーレに対して東京弁護士会を含む3つの弁護士会の綱紀委員会が、弁護士法人としてのアディーレと石丸幸人弁護士、複数の所属弁護士について、「懲戒審査が相当」とする議決をしていたことが判明しました。

 

 消費者庁は昨年2月、アディーレがホームページ上で行っていた、着手金を全額返還するキャンペーンを、実際は5年近くの長期にわたって行っていた事実に反し、1カ月間の期間限定でのキャンペーンと宣伝していたことが景品表示法に違反するとして、措置命令を出しています。それを受けて、同事務所や所属弁護士への懲戒請求が各地の弁護士会で起こされた結果、3つの弁護士会が今回の判断を出しました。

 

 今回の事件は対象となったアディーレがいわゆる過払い事件をきっかけに成長してきた「新興大手事務所」の最大手であることもあり、懲戒審査の行方が注目されています。

 

 「弁護士の懲戒」というとどんな状況を想像されるでしょうか。近年は弁護士による横領事件などがメディアにより取り上げられることもありますし、「暴力団やアウトローの手先」に堕した弁護士を想像する方もいらっしゃるでしょう。

 

懲戒制度がなぜ重要なのか
 実際の懲戒はいわゆる弁護過誤、事件を処理せず放置するなどの事例から、依頼者への虚偽の報告、過大な報酬、弁護士会の会費滞納、弁護士の行方不明なども含め多岐にわたります。いわば問題のある業務活動を行った弁護士にペナルティを与える、最大にして万能の方法として運用されているものです。

 

■弁護士自治において中核になる制度

 

 実は懲戒制度がなぜ重要なのかという点は「弁護士自治」と深くかかわっています。たとえば他の士業である司法書士の監督官庁は法務省、行政書士は総務省、公認会計士は金融庁、税理士は国税庁……と弁護士を除くほとんどすべての士業は何らかの形で省庁の監督を受けています。

 

 しかしながら、時に国家権力と対峙する弁護士については独立が守られ、監督官庁はなく、弁護士会自身が弁護士を処分しています。これは過去、治安維持法に反対した弁護士が資格を剥奪されたような歴史に基づくものであり、懲戒処分制度は弁護士自治において中核になる制度の1つなのです。

 

 簡単に弁護士会の懲戒制度について説明すると、まず懲戒の手続きは誰でも行える懲戒請求(弁護士法58条1項)によりスタートします。

 

 (1)弁護士会は、懲戒請求があったとき(または弁護士会があると思料するとき)は、綱紀委員会に事案の調査をさせます(弁護士法58条2項)。

 

 (2)綱紀委員会は、上記の調査により、対象弁護士等について、懲戒委員会に事案の審査を求める旨判断した時には、懲戒委員会に事案の審査を求め、審査が開始します(弁護士法58条3項)。

 

 つまり、本件についての懲戒の審査はまず所属弁護士会の中での調査と審査の2段階のうち、1段階目の調査を終了した状況といえます。

 

 たとえば2016年についてみると、懲戒の請求の総数は3480件、これについて調査が行われています。そのうち審査を求める旨の判断が出ている、つまり(1)の段階を突破したのが191件、さらに(2)の段階も審査をもってして懲戒相当という判断が出たケースが114件となります。

 

 つまり数字で見るかぎり、(1)の段階から(2)に進んだ事件は、過去の統計上は半数〜半数強ほどの件について最終的に懲戒処分が行われているといえます。最終的な処分は委員会の判断を待つことになりますが、客観的なHP上の表記については争いのなさそうな本件について(1)の綱紀を突破した以上、(2)でも懲戒処分相当という判断が出る可能性は相当程度あると言ってよいでしょう。

 

 なお、弁護士法人に対する懲戒は、法人自身に対する懲戒ですので、懲戒の効力は法人を構成する社員である弁護士や使用人である弁護士に直接及ばず、本件では「法人・石丸弁護士・その他複数の弁護士」がそれぞれ懲戒請求されています。本件では後述するように「法人」が懲戒されると、極めて大きな影響が出る場合があります。

 

 

「法人」が懲戒されると…
 2016年の統計では全懲戒事案114件のうち、60件が戒告処分、47件が業務停止、3件が退会命令、4件が除名処分となっています。この中でおよそ半数を占める「戒告」処分は不名誉な記録が残り、一定の制限を受けることがあるものの、業務そのものが大打撃を受ける程の効果はありません。一般的に戒告レベルの事件は報道されないことも多いため、多くの読者の方にとってはイメージしにくい懲戒処分かもしれません。

 

■業務停止となった場合

 

 それより重い「業務停止」については、たとえ1カ月という短いものでも弁護士法人にとっては大打撃となりかねません。

 

 弁護士・弁護士法人は業務停止期間中、一切の弁護士業務ができません。それは「すでに受けて裁判を行っている事件」でも「顧問契約」でも同じです。

 

 となると、業務停止処分を受けた弁護士は、いったんすべての事件、すべての顧問業務について辞任しなくてはならないのです。これは個人で営業を行っている弁護士でも場合により100件近い事件について別の弁護士を探して引き継ぎを行わねばならず、大変な業務となります。

 

 それに加え、本件は百数十人の弁護士を擁する日本屈指の大事務所であるところ、法人の業務が停止されれば法人名で受任している業務をすべて辞任しなければなりません。これは想像を絶する手間と時間を要することになりそうです。

 

 この点について、「業務停止期間中、事務所の中で懲戒を受けていない弁護士が新事務所を立ち上げ、その新しい事務所が暫定的にすべての事件を引き継ぐ」という応急処置で対応するケースで業務が滞ることは防げる、という実例もあるようですが、上記の混乱をすべて回避することは難しいでしょう。

 

 では業務停止が明けた後は前と同じ状態に戻れるのかというと、これも簡単な問題ではありません。業務停止を受けたことに不信感を持ち、弁護士を解任する依頼者や顧問先もいるでしょう。莫大な金額がかかっているといわれる広告費について、集客できない期間が挟まることは資金繰りの点からしても危険です。融資の継続においてもマイナス要因になるでしょう。タイミングと長さ次第では業務停止が事実上事務所を倒産させ、結果多くの依頼者を混乱させるということも十分ありえます。

 

 今回の件はどの程度重い処分になるのでしょうか。確かに、法律事務所が消費者庁から行政処分を受けたことは業界にとっても驚きで、多くの弁護士を擁しながら数年間問題のある状況を続け、ここに至ったことは問題が大きいとも言えます。高い倫理性を要求される法律事務所が行政処分を受けた、という未曾有の事態であることを重く見るなら処分は重くなると言えそうです。

 

 ただ、本件は倫理上の問題はあっても、実際に着手金は取っていないわけで、深刻な被害を受けた人がいるケースと比較し、あまり重く罰するのはどうかという意見もあります。

 

 

「戒告」で済むのか、「業務停止」か?
 相場観が問われそうですが、実は弁護士による広告は長く規制されており、これが解禁されたのは2000年。そこから現在に至るまで、広告についての懲戒というのは全期間を通して数件と極めて数が少なく、本件とピンポイントで類似する事案は存在しません。また懲戒が弁護活動の広い範囲の問題をカバーする以上、どの程度の処分を科すかについては客観的、一義的な基準がありません。

 

 本件は、「戒告」で済むのか、「業務停止」になるのかで、その後の影響に大きな差が出る事件です。

 

 また、懲戒の重さとは別に懲戒対象の範囲、「ボスの(事務所の)問題に巻き込まれて懲戒対象となる若手弁護士」の扱いについても、業界内外の注目点でしょう。

 

 アディーレ側は、懲戒された石丸弁護士以外のアディーレ所属弁護士について「広告にかかわっていない」として懲戒しないよう求めていると聞いています。若手弁護士の離反や退職を防いで事務所を守ろうとする経営側の事情も想像できます。

 

■責任の所在はどこに? 

 

 今回のケースについて責任の所在を実質的に考えるなら、アディーレで「広告戦略を誰が決定していたのか」という点が問題になりそうです。アディーレ内部の権限分掌については現在明らかではありません。事情に詳しい関係者に聞くかぎり、広告戦略はごく2〜3人のトップが判断しており、かつ実際に広告戦略にかかわっていた幹部が懲戒対象になっていない一方、まだ若手で権限のない弁護士が懲戒請求の対象となっている可能性もあるようです。

 

 おそらく懲戒請求に当たって、懲戒請求者はアディーレ内部での権限分掌を調査できないでしょうから、そうした齟齬(そご)は十分ありえます。とはいえ、どの所属弁護士もアディーレのHP、広告内容は見られるわけですから、それをやめさせるよう事務所のトップに働きかけることはできたともいえます。となると、責任の所在についてはある程度形式的に判断せざるをえません。具体的には通常の会社で取締役に相当する「社員」はより責任が重くなるといえます。

 

 ただ、昨今の若手弁護士を取り巻く就業環境は決して余裕のあるものではありません。解雇されたら明日の生活はどうしようと考えている若手弁護士も現在は多いと聞きます。名だたる名門事務所ですら上司の命令は絶対であり、上司の問題行為に巻き込まれ、懲戒の憂き目に遭っていると思われる若手の弁護士がいることは事実です。

 

 アディーレにおいて、事実上若手の弁護士がトップに広告方針を変えさせるような進言をすることができたかについて慎重に考え、形式面を見るとしても「社員」に就任している弁護士がどこまで権限を持っていたのか、いわゆるブラック企業の「名ばかり管理職」のような観点も必要だと感じます。

 

 具体的に申し上げると、弁護士法人が支店を出す際、どの支店にも必ず「社員」を置かねばならないことから、事務所内で権限を有していなくても、とりあえず地方の支店に配置した若い弁護士が「社員」として登記されることは珍しくないことなのです。

 

 「どの弁護士も専門家で独立した存在である」という考え方は建前としてあっても現在の状況には必ずしも当てはまりません。アディーレのように、組織化してサービスを展開する法律事務所では、弁護士であっても、上司の命令に逆らえない弱い立場の部下とならざるを得ない局面もあったでしょう。そうした点を考慮に入れず、実質的な役割の精査なく形式的に責任ある立場とする判断は、あまり望ましいとはいえません。

 

 上司に逆らうだけの力がなく誤った行動をとってしまった弁護士は、専門家でありつつ他方社会的には弱者としての側面も有しています。懲戒すべき事実については厳正に審査を行うべきでしょう。一方で、若手の弁護士に弁護士人生を通して記録が残る「懲戒歴」という烙印を押すこと、また手続きの中途であり、本来非公開である綱紀の段階で情報がどのように発表されるかというあり方については、より慎重を期すという考え方もあろうかと思います。

 

出典 ヤフーニュース https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170415-00167663-toyo-soci&p=1


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